やはり、問題はCSだ
4月24日、DeNA戦(甲子園)で勝利した阪神ナイン
阪神の調子がいい。
開幕投手の藤浪晋太郎はもともと160キロ近いストレートが投げられる素材豊かな男。それをいままで開花させられなかった首脳陣に私は疑問を投げかけたい。4月23日、DeNA戦(甲子園)では打ち込まれたが、誰が何と言おうと彼がエースだ。
一方、佐藤輝明は当たったら遠くへ飛ばす。当たろうが当たるまいが、お構いなしにプリップリッと振る。序盤戦で壁にぶつかっているが、どう克服するかと思って私は見ている。
佐藤輝に限ったことではないが、最近の選手はボールとバットの芯と芯をぶつけるという感覚がない。フルスイングをして三振に倒れても平気な顔でベンチに帰ってくる。バントの失敗にしてもそう。根底に何があるかといえば、指導者の教え方が行き届いていないのだ。「私の責任です」と言えるコーチがいるだろうか。
阪神が勝つかどうか、結果は終わってみないと分からない。それより問題なのは2、3位のチームにクライマックスシリーズ(CS)に出場する権利が与えられることだ。
いま私が監督をやっていて、シーズン中盤にどうあがいても優勝できないと悟ったら、オールスター明けには2位、3位狙いの戦い方にシフトするだろう。力を温存してCSの出場権を取りにいく。逆に1位を走るチームは逆転を許したら恥だと思って、死力を尽くして戦う。両者の疲れ方はまるで違う。
1位のチームがシーズンに勝ってほっと一息ついたところで、2、3位チームがCSで一気呵成(かせい)にエンジンを吹かして、引っくり返したらどうするのか。
阪神はこの15年、2、3位にはなるが2005年以来、優勝から遠ざかっている。今季もし1位になって、CSでコロ○と負けでもしたら、熱狂的なファンに支えられているチームだけに、こんな制度はおかしいと初めて目が覚めるだろう。
おかしいと感じたら声を上げるべき
同じシーズン1位でも四苦八苦した末の1位があれば、余裕を持っての1位もある。いずれにしても1位は1位であって、ほかの何ものでもない。それが、CSのわずか数試合で引っくり返されたら1位になった意味がない。
小学校で「よーい、ドン」で徒競走をやって、全員に平等に1等賞をあげるのと一緒。1位でなければ価値がないという制度になっていない。民主主義をはき違えている。だからキャンプを見ていても真剣味に欠けるのだ。
日本人は物事の本質を理解しないでアメリカのマネばかりする。CSにしてもMLBのポストシーズンゲームの受け売りだ。大リーグはそれをやるだけの理由があった。国土が広いから2つのリーグがそれぞれ東・西・中の3つの地区に分かれている。移動距離が長ければ、試合数も多い。何もかもが過酷。それに比べれば日本はセ、パ各6球団ではないか。にもかかわらず、四苦八苦して1位になったチームをないがしろにして、興行的に潤うだろうという理由だけでCSを開催してきた。
このような制度を認めてきたコミッショナーはナンセンスだ。現場も、おかしいと感じたら、決まったことだからと黙って従うだけではなく、声を上げるべきだ。
『週刊ベースボール』2021年5月10日号(4月28日発売)より
●廣岡達朗(ひろおか・たつろう)
1932年2月9日生まれ。広島県出身。呉三津田高、早大を経て54年に巨人入団。大型遊撃手として新人王に輝くなど活躍。66年に引退。広島、ヤクルトのコーチを経て76年シーズン途中にヤクルト監督に就任。78年、球団初のリーグ制覇、日本一に導く。82年の西武監督就任1年目から2年連続日本一。4年間で3度優勝という偉業を残し85年限りで退団。92年野球殿堂入り。
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